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2020年9月25日 (金)

ホンネは介護保険外しでは

国は来年度からの第8期計画で要介護でも市町村の「総合事業」の対象にできるようにするといっています。でも、「総合事業」って何かわからない方が少なくありません。
「総合事業」というのは介護保険のうち要支援1・2の認定者を介護給付からはずして、市町村が行う事業に移管したものです。例えば訪問では図のようになって、身体介護が必要という医師の証明が取れない場合にはAからⅮの支援になります。このうち、BとⅮはボランティアの支援です。
A型は報酬が安くて事業者が集まりません。そこで国は報酬を上げるのではなく、高齢者ボランティア集めに予算を増やすことにしています。しかし、これで集まらなければ利用者はさらに少なくなります。国のホンネはここだと思います。
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2020年9月22日 (火)

愛知県内介護事業所感染症対策支援金

県内の介護事業所のみなさんへ
Photo_20200922143301 愛知県でも介護事業所の感染対策助成金(緊急包括支援金)が始まります。
受け付けは10/5からです。
詳しくは愛知県高齢福祉課HPから

https://www.pref.aichi.jp/soshiki/korei/koronashienkin.html

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介護保険計画にパブコメ提出

介護保険法施行規則の一部を改正する省令に反対します。

私は名古屋市の総合事業で生活支援A型の事業に従事しています。この間厚労省は、通常型の「介護予防」には医師の意見書を必要とするなど認定要件を厳しくしました。そのため移行当初に比べ通常型利用者は毎年千人ずつ減っています。いっぽう 「サービスA」は事業所報酬が「介護予防」の8割程度と低いため、受け入れる事業所が少なく、名古屋市では昨年度通常型とA型、さらに住民主体の支えあい方を合計しても前年を下回っています。国の調査でも「介護予防」と「サービスA」の合計利用者数は減少しています。(厚労省「調査結果の概要」20.04.27

そのうえで第一号事業の対象者の弾力化にはいくつもの問題があります。

①相次ぐ事業者の撤退

 一番の問題は総合事業の報酬単価が低いため、事業者が集まらないことです。介護大手のニチイ学館のように要支援から全面撤退した事業者もあり、それまでの利用者が放り出されました。生活支援には「拒否要件」が課されていません。総合事業への移行にあたっては利用を継続していた事業所でも生活支援A型の新規利用を断っている事業所も少なくありません。省令案では「サービス価格の上限の弾力化」とありますが、財政力の乏しい自治体では改善は見込めません。

②従事者が集まらない

 各県内の最低賃金は同一ですが、介護報酬は級地によって1割程度の格差があります。低い市町村では最低賃金ぎりぎりです。地域、事業所によっては1回が45分のみに限定されていたり、移動時間が無給のことも多く、実質は最低賃金以下の場合も少なくありません。なかには月額報酬ではなく1回単位の報酬となっている自治体もありますが、この場合には利用者のキャンセルがあると報酬が払われず、従事者が無給となる自治体もあります。
 生活支援A型は市町村の行う研修修了者が従事することになっていますが、研修にはきても実際に働いてもらえる従事者が集まらないという自治体が少なくありません。
③さらなるボランティア化

生活支援A型は「主に雇用労働者」となっていますが、シルバー人材センター頼みの地域もあります。B型以後の「住民主体の事業」では有償・無償のボランティアになっています。第8期計画では予防介護と生活支援A型の改善について全くふれられていません。担い手確保対策は「元気高齢者等参入促進セミナー」「ボランティアポイント」と「地域住民が共に支えあう地域づくり」になっています。まさに「自助と共助」頼みで「公助」はありません。

④利用者本人の希望というごまかし

 昨年度は要介護1・2の生活支援を介護保険から総合事業に移す案が猛反発をうけたために今回は「本人の希望を踏まえて」という文言を盛り込みました。要介護になると利用料が上がることを心配して総合事業の継続を希望する利用者がいるかもしれません。しかしこれでは必要な介護が利用できるかどうか「カネ次第」となってしまいます。医療にはこのような規定はありません。問題は利用者負担が高いことです。
⑤生活支援にも労働者としての保障を

第8期介護保険計画指基本針案では 「介護人材確保のためのボランティアポイントの活用、地域の支え合い・助け合い活動のための事務手続き支援事業等の活用により、ボランティア活動や就労的活動による高齢者の社会参加の促進など、地域の実態や状況に応じた様々な取組を行うことも重要である。」とされています。これは 「高齢者雇用安定法」の「ただし」書きで一定の要件を満たせば、「就業確保措置」でもよいとしたことを受けたものです。そのなかで⑤委託契約あるいは、⑥事業主が実施もしくは委託、出資等する社会貢献事業での有償ボランティアとなっています。⑤⑥は雇用と並列させる選択肢ではなく、委託契約だけでもよいことになっています。

しかしボランティアや個人委託では最低賃金も労災保険も適用されなくなります。支援中や移動時のケガやコロナ感染の補償もありません。

⑥保険あって介護なし

今回の「弾力化」によって要介護者までもが市町村の総合事業の対象となり、自治体財政が赤字になれば自治体は利用者を減らさざるを得ません。都市部でも地方でも自治会・町内会の役員なり手が不足している今日、事業者もボランティアも集まらなければ利用者のサービスが打ち切られかねません。
 国は介護予防によって介護の重度化を遅らせることができるとしてきました。しかし、このようなやり方で総合事業を実質利用できない制度にしてしまえば、まさに「保険料だけあって介護なし」です。Hata2009203 Chu200922 Hata2009202

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2020年9月19日 (土)

「最低限度の生活」か「健康で文化的な最低限度」か

先の生活保護6.25名古屋地裁判決を批判する意見書が集まってきています。

生活保護利用者の生活実態を調査に関わった岐阜協立大学の高木博史教授は

ここでの重要の論点は、「健康で文化的な最低限度の生活」と「最低限度の生活」のどちらを基準とするのかということである。当該判決が「切り取った」これらの数字は裏を返せば、たとえば、飽食の時代であるといわれる現代日本の社会において、約4割の者が1日3回の食事がまともに取れていないことを意味しており、かつ半数の者が満足な食事ができていないことになる。あるいは、外食や映画、カラオケ、日帰り旅行などの娯楽活動をすることは、「最低限」の生活ではないという「劣等処遇」の思想に基づいていることは明らかである。

と「最低限度の生活」を批判しています。

全文は

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2020年9月14日 (月)

第8期介護保険計画と総合事業

 2021年度から3年間の介護保険事業(支援)計画を定める「基本指針」の見直し案が7月に発表され、議論は大詰めにかかっています。(案)では地域包括ケアシステムの構築を進めるとして「介護予防・健康づくり施策の充実・推進」「総合事業」の取り組みを強めるとしています。すでにパブコメも始まっています(9/23〆切)。
総合事業とは
国は第7期のなかで要支援者へのサービスを保険給付から市町村が運営する「総合事業」に移してきました。訪問介護では要支援者の介護保険適用は順次なくなり、「総合事業」で身体介護の必要な「介護予防」(現行相当)と、「掃除」「洗濯」「買い物」「調理」など生活支援のみの「サービスA」(緩和基準・主に雇用労働者)、ボランティア主体の「サービスB」などの「多様なサービスス」になりました。しかしその実態は給付費を抑制する安上がり政策となっています。
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厚労省は生活支援の回数を制限したり、「介護予防」には医師の意見書を必要とするなど認定要件を厳しくしました。 また「サービスA」は事業所報酬が従来の8割程度と低いため、受け入れる事業所が少なく、撤退も相次いでいます。
 総合事業の利用者を「要支援者」とチェックシートのみの「事業対象者」にまで拡大したのに、「介護予防」と「サービスA」の合計利用者数は減少しています。←(厚労省「調査結果の概要」20.04.27)
第8期では総合事業をいっそうボランティア化することにしています。
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介護保険計画パブコメについて
国は省令だけで要介護者を総合事業にしようとしています。国会が開かれないうちに「介護保険法施行規則の一部を改正する省令案」を出してパブコメを始めました(9/23〆切)。改正案のトップが「第1号事業者に関する見直し」となっています。
①第一号事業の対象者の弾力化
介護保険法(平成9年法律第123号。以下「法」という。)第115条の45第1項第1号に規定する第1号事業(以下「第1号事業」という。)の対象者について、社会保障審議会介護保険部会で取りまとめられた「介護保険制度の見直しに関する意見」(令和元年12月27日。以下「意見書」という。)において、「現在、総合事業の対象者が要支援者等に限定されており、要介護認定を受けると、それまで受けていた総合事業のサービスの利用が継続できなくなる点について、本人の希望を踏まえて地域とのつながりを継続することを可能とする観点から、介護保険の給付が受けられることを前提としつつ、弾力化を行うことが重要」とされたことを踏まえ、所要の見直しを行う。

ここにはいくつもの問題があります。
①相次ぐ事業者の撤退
 一番の問題は総合事業の報酬単価が低いため、事業者が集まらないことです。介護大手のニチイ学館のように要支援から全面撤退した事業者もあり、それまでの利用者が放り出されました。生活支援には「拒否要件」が課されていません。総合事業への移行にあたっては利用を継続していた事業所でも生活支援A型の新規利用を断っている事業所も少なくありません。省令案では「サービス価格の上限の弾力化」とありますが、財政力の乏しい自治体では改善は見込めません。
②従事者が集まらない
 生活支援A型は市町村の行う研修修了者が従事することになっています。各県内の最低賃金は同一ですが、介護報酬は級地によって1割程度の格差もあります。低い市町村では最低賃金ぎりぎりです。地域・事業所によっては1回が45分に限定されていたり、移動時間が無給のことも多く、実質は最賃以下の場合も少なくありません。なかには月額報酬ではなく1回単位の報酬でキャンセルがあると無給となる自治体もあります。また研修にはきても実際に働いてもらえる従事者が集まらないという自治体もあります。
③さらなるボランティア化
生活支援A型は「主に雇用労働者」となっていますが、シルバー人材センター頼みの地域もあります。B型以後の住民主体の事業では有償・無償のボランティアになっています。第8期計画では予防介護と生活支援A型の改善は全くなく、担い手確保対策は「元気高齢者等参入促進セミナー」「ボランティアポイント」と「地域住民が共に支えあう地域づくり」になっています。まさに「自助と共助」頼みで「公助」はありません。
④利用者本人の希望というごまかし
 昨年度は要介護1・2の生活支援を介護保険から総合事業に移す案が猛反発をうけたために今回は「本人の希望を踏まえて」という文言を盛り込みました。要介護になると利用料が上がることを心配して総合事業の継続を希望する利用者がいるかもしれません。しかしこれでは必要な介護が利用できるかどうか「カネ次第」となってしまいます。問題は利用者負担が高いことです。

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2020年9月12日 (土)

訪問に来てくれなくなる

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要介護者が総合事業を利用できるようにすることが「保険あって介護なし」となりかねません。
総合事業にいち早く取り組んできた名古屋市では要支援1・2の認定者も新たに総合事業を利用できるようになった「事業対象者」も増えているのに訪問サービス(身体と生活支援A)の利用者は減っています。さらに19年度は住民ボランティアによる訪問を足しても減少しています。
その一番の理由は受け入れる事業所が少ないことです。ここに要介護認定された方が総合事業に来ても断られかねません。
生活支援の訪問サービスA以下では介護保険にある「拒否要件」が外されていて、事業所の都合で断ることができます。
もちろん、人員が足らない場合には正当な理由で断ることができます。

そして受け入れる事業所が少ない理由は報酬の低さです。介護のヘルパーが安いという話は有名ですが、総合事業のサービスAではその7~8割に設定されていて、最低賃金ギリギリで、しかも1回45分だとその3/4しかもらえません、移動時間が無料だと最賃以下です。サービスB以下はボランティアで最賃どころではありません。
国は来年度の介護保険計画で元気な高齢者によるボランティア集めのために予算をつけようとしています。

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介護保険改悪反対パブコメ提出

介護保険改悪反対パブコメ提出しました。
9/23締切りです。
みなさんもパブコメはこちら へ書いてください。

介護保険法施行規則の一部を改正する省令案に関する意見
2020年9月11日 榑松佐一
第1号事業の対象者の弾力化に反対するHata200911
私の勤める事業所は4年前から名古屋市の総合事業で生活支援A型の訪問事業を始め、現在110名ほどの利用者を支援しています。昨年度の名古屋市の生活支援A型は2,500人ほどの利用者ですから、市内で大きな事業所の一つです。
利用者のうち一年間に2割程度が入院、施設入所、要介護認定など重度化し、なかには亡くなる方もいます。このうち、要介護認定で訪問事業所を変わる方は半分ほどになります。なかには慣れた担当者が変わるのを残念がる方も無いことはありませんが、日ごろでも事業所の都合で担当を変わることも少なくありません。「本人の希望を踏まえて地域とのつながりを継承することを可能とする観点から」総合事業の利用を継続できるようにするという理由付けは全く思い当たりません。
いっぽうで総合事業の利用者のなかには介護度があがることにより、利用者負担金が増えることを心配される方がいます。今回の「弾力化」の本音は総合事業を利用することで安上がりの介護とすることを目的にしているのではないでしょうか。
名古屋市では生活支援A型の月額報酬を当初予防専門型(従来基準)の7割程度としましたが、事業者が集まらず8割程度に引き上げました。しかしこの2年間に要支援者が2千人増える中でも専門型とA型の訪問利用者は320人のマイナスになっています。月額報酬の低さから従事者への賃金も最低賃金程度に低く抑えざるをえず、一回を45分に限定して一回の手当てを抑えている事業所もあります。そのため従事者が集まらない事業所が大半です。
 名古屋市以外の県内市町村では地域単価が名古屋市に比べて1割ほど低いうえ、日割り報酬となっている市町村が少なくありません。当事業所のキャンセル率は9%程度ですが、日割りになると休みやすくなります。その結果、利用者一人当たりの事業所収入は名古屋より2割程度安くなります。昨年度の生活支援A型の利用者は全県でも4,500人程度にとどまっています。
今回の改定案で「本人の希望を踏まえて」とされていますが、要介護認定をうけた利用者のなかには総合事業を利用することで利用金額が安く抑えられることを希望する方がでると思われます。今回は利用金額には触れられていませんが、要介護者が総合事業の生活支援をうけるようになって単価を引き下げることが心配されます。
総合事業が始まってから要支援から撤退した事業者が相次ぎました。総合事業を受けている事業者であっても生活支援には介護保険にある拒否要件がなく、地域包括支援センターからの要請が断られることもあります。
今後要介護者が総合事業を受けられるようになっても、受け入れる事業所が足らなければ「保険あって介護なし」になりかねません。

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2020年9月 7日 (月)

木村草太教授「法律の文言も趣旨も無視している」

名古屋地裁での生活保護費引き下げを容認する判決は法治国家の放棄? 木村草太教授「法律の文言も趣旨も無視している」

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名古屋地裁は6月25日、生活保護費の引き下げは「生存権」を保障する憲法25条などに違反するとして、取り消しを求めていた生活保護受給者らの訴えを棄却した。この判決について、憲法学者の木村草太さんはどのように捉えているのだろうか。

生活保護費の引き下げは「生存権」を保障する憲法25条などに違反するとして、取り消しを求めていた生活保護受給者らの訴えが棄却された判決。憲法学者の木村草太さんは、この判決を「法治国家の放棄」と強く批判する。どういうことなのか。BuzzFeed Newsは木村さんに話を聞いた。


政府はデフレによる物価の下落が2008年から2011年にかけて確認されていることなどを理由に、2013年に生活保護費の引き下げを行った。原告は、この生活保護費引き下げの根拠となっている物価の下落率が、厚生労働省の専門部会で適切な手続きを経て承認されたものではないことを問題視していた。物価の下落率の計算方法についても、生活保護世帯の消費実態に基づく調査結果の数字ではなく、一般世帯の消費支出をもとに計算されているため、実態とかけ離れたものであると主張している。

こうした原告の主張を受け、名古屋地裁の角谷昌毅裁判長が下した判決は以下の通りだ。

(1)憲法25条の「健康で文化的な最低限度の生活」は具体的な水準が変動し得ることを予定しており、生活保護制度の後退を禁じていない

(2)物価下落を反映したことで実質的に当時の生活保護費は増えたと評価でき、判断が不合理であるとは言えない

(3)一般世帯の消費支出をもとに支給額を算出することは不合理であるとは言えない

(4)専門家の検討を経ることは通例ではあるが、専門家の検討を経ていないことをもって、その判断過程や手続きに過誤、欠落があったと言うことはできない

その上で、生活保護費を引き下げるという当時の厚生労働大臣の判断は「国民感情や国の財政事情を踏まえたもの」であり、生活扶助基準を改定するにあたり、これらの事情を考慮することができることは「明らかである」とした。

法律の文言も趣旨も無視している


ーー判決文全文をお読みになった上で、どのような点で「法治国家の放棄」と感じられたのでしょうか?

当たり前のことですが、生活保護基準は、生活保護制度を利用する人が「健康で文化的な最低限度の生活」を営むことができるかどうかによって定めるべきです。

生活保護法8条2項は、基準を定めるときに考慮すべき事項を、「要保護者の年齢別、性別、世帯構成別、所在地域別その他保護の種類に応じて必要な事情」と定めています。

原告は、2013年の基準改定で「国の財政事情、国民感情、政権与党の公約」を考慮して基準を定めることは、違法・違憲だと主張しました。

〈国の財政事情が悪くなったり、政権与党が基準引き下げを公約したりすれば、より少ない金額で従来と同レベルの生活が可能になる〉という事実関係があるなら話は別ですが、そんなわけはないでしょう。

「国民感情」についても同様です。これらの事柄が生活保護法8条2項で定められている「保護の種類に応じて必要な事情」に該当しないのは明らかです。

ところが、裁判所は、原告らの主張は採用できないとして、国民感情や政権与党の公約を考慮して基準を定めてもよいとしました。

法律の文言も趣旨も無視しているわけですから、この判示は法治国原理の放棄です。


——判決は、国民感情と国の財政状況を理由に、生活保護基準の引き下げを適法としたのですか?

名古屋地裁は、〈国民が生活保護基準を引き下げろという感情を持っていたから、2013年の基準改定は適法だった〉と、ド直球に述べているわけではありません。

しかし、その内容を精査すると、急所の論証(重要なポイントの検証)があまりにもあいまいで、理論が示されていない。

国民感情云々の判示を前提にすると、裁判官は、〈国民感情が認めてくれるから、このくらいの論証でよいだろう〉と考えたということでしょう。

〈国のやっていることを正当化するには、国民感情を持ち出さざるを得ない〉と認めるのは、ある意味では誠実です。

もちろん、私が強調したいのは、「誠実」ではなく「ある意味」のところです。


生活できなくなったときのため、保障されている生存権


ーー原告はこの生活保護費の引き下げは生存権を脅かすものであると主張しています。そもそも、生存権とは、どのような権利なのでしょうか?

日本は市場経済あるいは自由主義経済と呼ばれる経済体制を採用しています。

市場経済とは、お金・モノ・サービス・労働・情報などを人々が市場で自由に交換できる体制です。

この経済体制では、生産者に創意工夫や需要の高い財の供給を促す一方、消費者は自分の需要に応じて、好きな財を得ることができる。人々の自律的意思による活動を促すことで、経済や文化を発展させることができる優れた経済体制です。

ところが、この市場経済には重大な欠陥があります。それは、老齢、病気、失業、貧困などが原因で交換すべき財を持たない人は、市場経済に参加できず、生活ができなくなってしまうことです。

そこで、憲法25条1項は「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と規定し、国民に生存権を保障したのです。


——この訴訟で問題となった生活保護基準とは、どのようなものなのですか?

憲法25条1項には、困窮した場合に、具体的にどのような援助を受けることができるのかは書いてありません。

このため、国会には〈生存権の内容を具体化する法律〉を定める憲法上の義務があるとされます。

この義務を受けて、国会が制定したのが「生活保護法」です。生活保護法の11条は、困窮した者は、次の八種類の保護を受けることができると定めています。

【生活保護法11条】

保護の種類は、次のとおりとする。

一 生活扶助

二 教育扶助

三 住宅扶助

四 医療扶助

五 介護扶助

六 出産扶助

七 生業扶助

八 葬祭扶助


2 前項各号の扶助は、要保護者の必要に応じ、単給又は併給として行われる。

厚生労働大臣は、それぞれの扶助の種類ごとに、基準となる金額や現物支給の条件を定めます。

今回問題となったのは、食料や衣料、娯楽費など、日常の生活費に使う「生活扶助」の基準でした。

ーー生活扶助基準は、誰が定めるのですか?

生活保護法の8条・9条では、次のように定められています。

(基準及び程度の原則)

第八条 保護は、厚生労働大臣の定める基準により測定した要保護者の需要を基とし、そのうち、その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度において行うものとする。

2 前項の基準は、要保護者の年齢別、性別、世帯構成別、所在地域別その他保護の種類に応じて必要な事情を考慮した最低限度の生活の需要を満たすに十分なものであつて、且つ、これをこえないものでなければならない。

(必要即応の原則)

第九条 保護は、要保護者の年齢別、性別、健康状態等その個人又は世帯の実際の必要の相違を考慮して、有効且つ適切に行うものとする。

適切な生活扶助基準を定めるのは、厚生労働大臣の責務です。

論証不足を無理矢理補うため、国民感情等を考慮?

ーー今回の訴訟で原告は、どのような主張をしたのでしょうか?

厚労省は、一般世帯(生活保護を利用していない世帯)の消費支出の金額との均衡(バランス)で生活保護基準を決定する、という方式を採用しています。これを消費水準均衡方式と言います。

2013年の基準改定は、①一般低所得世帯(一般世帯を所得順に10のグループに分けたうち、最も所得の低いグループ)の平均支出額をベースに、②前回基準決定後のデフレによる物価下落率を掛け合わせて決定されました。

①は「ゆがみ調整」、②は「デフレ調整」と言われています。

原告らは、①ゆがみ調整については、そもそも、「一般世帯」とのバランスが問題なはずなのに、一般低所得世帯と比べるのは不合理だ、と主張しました。

日本では、最低限度の生活ができておらず、本来なら生活保護を利用できるにもかかわらず、実際には生活保護を利用していない人がかなりいます。つまり、一般低所得世帯には、最低限度未満の生活をしている人(生活保護を受けられるのに、受けていない人)が多数含まれている。一般低所得世帯の消費支出を最低限度生活の基準としたのでは、〈最低限度の生活〉の内容は際限なく切り下げられることになるでしょう。

②デフレ調整はさらに問題です。消費支出は、物価に連動します。つまり、生活に必要な物はそう簡単には減りませんから、消費支出が下がったということは、物価が下落しているということです。

消費支出の動向を基準に生活保護の金額を決定すれば、そこには物価の下落はすでに反映されているはず。一般世帯の消費支出の低下を反映して基準額を算定した後で、さらにデフレ調整を行うのは、物価下落の二重計上になります。

さらに、物価下落の計算方式にも、多数怪しい点があると主張しました。

ーー判決は、①ゆがみ調整と②デフレ調整をどう評価したのでしょう?

名古屋地裁は、一般低所得世帯の消費支出は、主として、中間所得世帯の50~60%程度に達しているという理由を挙げて、①ゆがみ調整を妥当としています。

また、②デフレ調整については、物価下落は、実質的な可処分所得の増加になるのだから、合理的な調整だとしています。

ーーこの評価について、木村さんはどのように捉えますか?

①ゆがみ調整の根拠については、全く理由になってないでしょう。「中間所得世帯の50~60%」が、最低限度の生活を満たしているのか否かは、精密な検証をしないと分からないのに、それをした形跡はない。

また、中間所得世帯の何%に達しているかは、世帯構成によってもバラバラです。さらに、中間所得世帯と比べるなら、一般低所得世帯の消費水準との比較を持ち出す必要はなく、端的に、「生活保護基準が中間所得世帯の60%に達しているかどうか」を検討すればよいはずです。

判決の認定を前提にしても、国が、①ゆがみ調整で不合理なごまかしをしたのがわかります。

②デフレ調整についての論証も、全く不可解です。生活保護基準は、一般世帯の消費水準を基準に決定されてきました。ところが、国側は〈実質的可処分所得額評価方式〉とでも名付けるべきような基準を唐突に持ち出してきて、裁判所がそれを是認してしまった。基準決定方式を変えてしまっています。

このように、今回の判決は、急所のところで論証不足です。

国民感情等を考慮してもよいという判示は、この論証不足を無理矢理補うために置かれていると考えられます。

ーー今回の判決は、国民感情と国の財政状況を踏まえた上で生活保護基準を引き下げることは容認されると読み取れるものだと考えています。法律ではなく、国民感情や国の財政状況によって判決が下されることをどのように捉えますか?

人が、最低限度の生活をできているかどうかは、一部の人が抱く生活保護受給者への反感や、国の財政状況によって決まる事柄ではありません。

裁判所には、国が、適切な資料・根拠に基づき、合理的な判断をしているかを監視する責任があります。

控訴審では、生活保護は、「要保護者の年齢別、性別、健康状態等その個人又は世帯の実際の必要の相違を考慮して、有効且つ適切に行う」という原則(生活保護法9条)をしっかり確認すべきでしょう。

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