NHK「時事公論」が詳しく解説6.27最高裁判決
生活保護引き下げ訴訟 最高裁の判断は![]()
初回放送日:2025年6月27日
生活保護の支給額が2013年から大幅に引き下げられたことが争われた裁判。全国で同様の訴えが起こされ司法判断が分かれる中、最高裁判所が27日、判決を言い渡します。
生活保護最高裁判決 “引き下げ”は違法
生活保護の支給額が、2013年から大幅に引き下げられたことが争われた裁判で、最高裁判所は27日「引き下げは違法」とする判決を言い渡し、国の敗訴が確定しました。 今後は、およそ200万人とされる当時の受給者への国の対応が焦点となります。今回は、生活保護をめぐる引き下げの経緯と最高裁の判断を解説します。
【全国で相次いだ生活保護裁判】
この裁判は、全国で1000人あまりが国に訴えを起こしていたものです。これまで高裁で判決のあった12件のうち、引き下げを取り消したのが7件、原告敗訴が5件と判断が分かれていました。 生活保護をめぐっては、戦後いくつもの裁判が起こされてきました。 その“草分け”と言われるのが「朝日訴訟」です。
【憲法25条の理念に基づく生活保護】![]()
岡山県早島町の図書館です。 ここに60年以上前に争われた「朝日訴訟」の資料が保存されています。訴えを起こしたのは、結核で町の療養所にいた朝日茂さんです。
当時の生活保護は支給額の内訳が、肌着は2年に1着、足袋が年1足など極めて低いものでした。寝巻きを何度もつぎはぎした写真も残されています。 保存資料のうち、図書館は現在、裁判記録など一部を館内に展示しています。
茂さ![]()
んは途中で亡くなり、養子となった朝日健二さんの夫婦が裁判を引き継ぎますが、昭和42年に最高裁で敗訴が確定します。ただ、労働者などにも支援の輪が広がり、国は生活保護の水準を徐々に引き上げていきました。![]()
憲法は「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」とされています。生活保護はこの理念に基づく制度です。 また、最低賃金、介護保険の自己負担限度額、就学援助など47の制度に連動していると言われます。 つまり受給していない人も決して無縁ではないのです。
【重い財政負担と引き下げ】
しかし、いま生活保護費は、総額およそ3.6兆円(23年度)。世帯数は、わずかに減っていますが164万世帯(24年3月)。半数以上が高齢者の単身世帯(84万余)で、国や自治体の負担になっています。 いまから17年前のことです。 2008年の金融危機、「リーマン・ショック」が日本の経済にも影響を与えました。数年にわたって多くの人が職を失い、賃金、物価、家計消費とも下落しました。 国は2013年から15年にかけて、生活保護費(生活扶助基準額)を平均6.5%、最大10%引き下げました。 削減された保護費の総額は670億円に上ります。
【デフレ調整が争点に】
裁判になったのは、この引き下げについてです。 問題![]()
は引き下げの手法でした。「デフレ調整」と言われます。
2008年から11年にかけて、総務省の消費者物価指数(総務省CPI)は「-2.35%」でした。 ところが、厚労省は独自の指数(生活扶助相当CPI)を用いて、物価の下落率を「-4.78%」としたのです。 同じ期間でも下落率に2倍の差があります。なぜこれほど大きな差が生じたのか。 厚労省の計算はテレビ、ビデオレコーダー、パソコンなど(テレビ等5品目)値下がりしやすい品目の影響を強く反映していました。しかし生活保護を受給している人で、テレビやパソコンを頻繁に買い換えることは難しいでしょう。
さらに、このデフレ調整にあたって、厚労省は専門家の意見を事前に聞いていませんでした。 生活保護の見直しは、専門家による会議で検討され、厚生労働大臣がその報告を踏まえて基準を改定することが、多くの場合過去の「通例」と言われていました。 しかし、この時は事前の専門家による検討や検証もない。しかも、判断の具体的な過程も明らかにされていませんでした。
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このため裁判で原告たちは、「計算が恣意的で物価偽装」「専門家の意見も聞かず独断」などと主張したわけです。 これに対して国は「生活保護に関しては国が幅広い裁量を持っている」と主張し続けました。さらに「専門機関からの意見を聞くことが法律上決まっているわけではない」などと反論していました。
【最高裁判決と今後の焦点は】
27日の判決で最高裁判所第3小法廷の宇賀克也裁判長はこう指摘しました。![]()
「物価の変動は、生活保護の基準を見直す指標の一つだが、それだけでは消費実態を把握するものとして限界があり、専門知識に基づいた十分な説明が必要だ。しかし専門家の審議の検討が行われていないなど、専門的な知識に基づくとは認められない。デフレ調整の判断過程と手続きには誤りがあった」
そして、生活保護の引き下げを取り消す判決を言い渡しました。 裁判長である宇賀裁判官は、さらに個別意見でこう述べています。
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「専門家の意見を聞かないなら、厚労省の中で専門的で技術的な検討が十分行われるべきなのに、その形跡はない。独自の物価指数を使ったことについても、生活保護世帯に関係の少ない電気製品の価格の影響が強く表れており問題がある」
このように厚労省の姿勢をさらに厳しく批判し、「賠償も認めるべき」と述べています。 敗訴が確定したことで、およそ200万人とされる当時の受給者への国の対応が、今後の焦点です。 また、国が定めた生活保護の基準額を最高裁が違法と判断したのは初めてです。当時の判断過程のどこに問題があったのか、客観的な検証と国民への説明が求められます。
生活保護をめぐっては、重い財政負担をどうするかという大きな課題があります。また不正受給もたびたび問題になります。制度は時代に応じた見直しや厳格さも求められます。 しかし、今回の最高裁判決は、適正な手続きを経ない不当な引き下げは許されないという姿勢を明確にしていて、今後の行政への影響は大きいでしょう。
【60年前に戻った日本なのか】![]()
冒頭紹介した朝日訴訟で、養子として裁判を引き継いだ朝日健二さん。その後も生活保護受給者への支援活動を続け、10年前、80歳で亡くなりました。 私は生前の健二さんに、何度か取材で話を聞いていました。その中で、健二さんが語った忘れられない言葉があります。
「生活保護の水準があがり、自分の役割は終わったと思っていた。しかし再び支給額が減らされて、日本はまるで昔に戻ったかのようだ。また、当時は多くの支援があったが、いまは生活保護へのバッシングが強く、悲しい思いになる」
朝日訴訟の資料として残された「寄せ書き」には、たくさんの支援者の名前が書かれていました。 冒頭に触れたように、生活保護は最低賃金とも連動します。当時、労働者など多くの人が朝日訴訟を支援したのも、生活保護の水準上昇が賃金引き上げにもつながると考えたからでしょう。
【国民の権利】
現在、生活保護に対する批判や非難の言葉も聞かれます。 しかし「みんな苦しいから我慢しろ」では、負の連鎖は止まりません。不当な引き下げを容認することにもなってしまいます。 弱い立場の人を叩くのではなく支え合うことが、社会にとっても望ましいのではないでしょうか。 そして、「健康で文化的な最低限度の生活」は、憲法が保障した国民の権利です。 貧富の差が広がり財政負担が重い中であっても、この権利は、決して変わらないはずです。
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